UBE BIENNALE

素材とのつながり(1971-図録)

澄川 喜一

現代彫刻は、木や石を彫ったり、粘土で肉づけしたりする定められた技法の上に組立てられたある固定概念の跡を辿るだけでなく、その跡を乗り越え、又、志向をかえて展開し、自己の観念と素材との関係を、肌で鮮烈に感じとろうとしはじめてから、すでにかなりの時が経過した。

自然の物質を始め、人間の知恵によって生れたあらゆる材料(技術)を、思考の中に引込み造形していくと云う複雑且つ多面的な発展の可能性をいっぱいにはらみながら、多くの新しい価値のある造形が生れている。

ただ単に材料を効果的に使うと云う形式的な表現上の問題だけではなく、<作りたい>と思う創作上の必然性と素材との関係、云いかえれば、――人間と素材の関係――を原点にして、より深く求め、実験し、認識していこうとしている。

膨大な社会のメカニズムの流れの中で、ミクロの一個人が、素材との繋がりを思考することは、最も非生産的なことのようでもあるが、既成の概念や形式にとらわれず、無理のない自由な気特ちで素材と対話し、素朴に触れあうことは、人間性の根源であり、創作することの一つの芯となるべきもののようである。

今回の第4回現代日本彫刻展は「強化プラスチックスによる」展覧会として企画されている。強化プラスチックス=FRP(Fiberglass Reinforced Plastics)と云う材料は、異質の材料(引張り強さの大きいガラス繊維と、これと親和性の良い不飽和ポリエステル樹脂)を結合させることによって、材料に多様性を持たせ、型造る可能性を高めたものであり、FRPはプラスチックスの鉄筋コンクリートのようなものと云えよう。(強化プラスチックス協会資料No.43-1より)

方法としては、常温・無加圧で成型できる樹脂の特長を利用し、型に順次積層して作る方法が一般化しているが、他の材料との構成や、材料の長所短所を生かした新しい実験的な表現が行われている。

それぞれ異った思考をもつ作家が、この材料に挑むことによって、試行錯誤し、エネルギーを投入し、自身の志向する形態に向って材料を征服し、生みだされた形(かたち)は、単なる材料ではなく、新たな意味をもつものとして置き換えられ、鋭利に切り放され、或いは繋がりあい、呪縛し、個々の空間の詩をうたいながら野外の環境に息づき、浸透してゆくであろう。

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