UBE BIENNALE

第29回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)に寄せて(2022-図録)

 3年ぶりとなる野外彫刻展が開催される運びとなったことを大変うれしく思います。

 昨年度末、UBEビエンナーレ60年史「彫刻のまち」が発行されましたが、この野外彫刻展の長い歴史のなかでも、コロナ禍に過ごした数年間は、かなり特殊な時期となったのではないでしょうか。

 移動制限やマスク生活、多くの美術館が展覧会の中止や延期を余儀なくされました。当たり前の日常が日常ではなくなったこの数年は、作家たちにも大きな環境の変化と心的影響を与えたものと想像します。また今年に入って不意に始まった戦争も、頭を離れない出来事でしょう。

 野外彫刻は、人と場とのつながりを強くもつ芸術です。それぞれの作家たちが、日常を見つめ直し、人間性とは何かを考え、この困難を創造的に乗り越えるべく制作に励んだであろうことを頼もしく思います。

 野外彫刻展の会場であるUBEビエンナーレ彫刻の丘には、同じく困難なときを乗り越えて制作された向井良吉氏の60年前の野外彫刻「蟻の城」がいまも変わらずに設置されています。鉄工所から提供された鉄クズを使って、現地で制作された作品です。この作品を前にするとき、わたしは向井氏が体験した戦争、復興のさなかにあった当時の宇部のまちを思い出します。彫刻が人々の“記憶”と強く結びつくものであることを改めて思わずにはいられません。

 わたしがUBEビエンナーレの審査に関わるようになって早くも30年の時が経とうとしています。その間に宇部のまちの風景や社会を取り巻く環境も様々に変化しました。まちに設置されている野外彫刻は、いまでは200点を超え、近年では、経年劣化した作品のメンテナンスや設置場所の見直しも行われていると聞きます。古い新しいに関わらず、生き生きとその場で呼吸をしている作品に出合えることは快いものです。

 第29回UBEビエンナーレの会場にそろった完成したばかりの野外彫刻との対話を、多くの方々とともに味わい、楽しみたいと思います。

UBEビエンナーレ運営委員長 酒井 忠康

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