MENU

彫刻との対話(作品解説ブックレットWEB版)

UBEビエンナーレ60年 彫刻との対話

蟻の城 Ant Castle
向井 良吉 MUKAI Ryokichi
鉄、塗料
1962  宇部をテーマとした彫刻
設置場所 ときわ公園 UBEビエンナーレ彫刻の丘

UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)は、都市が主催するものとしては日本初となる大規模な野外彫刻展として1961年にスタートしました。美術館の展示室や作家のアトリエから、戸外へと持ち出された彫刻は、この時はじめて、大きな空や輝く太陽、吹きわたる風と出合ったといえます。「蟻の城」の作者である向井良吉は、建築家の大高正人、美術評論家の土方定一、彫刻家の柳原義達らとともに、UBEビエンナーレの草創に深く関わった人物のひとりです。「蟻の城」は、大地にしっかりと立ち、天へと翼を広げるような堂々とした造形で、戦後復興を遂げ、発展していく宇部のまちを表現しています。


門V・a   Gate V-a
土谷 武 TSUCHITANI Takeshi
コンクリート
1963
第1回全国彫刻コンクール応募展 毎日彫刻奨励賞

野外という自由で開放的な彫刻展会場は、作家たちにとって、素材と形の新たな可能性を探る熱心な実験の場となりました。ブロンズに代わる安価な材料であったコンクリートは、1950年代後半~1960年代前半までよく使われました。「門V・a」もそんなコンクート作品のひとつで、直線的な形で構成された抽象作品です。表面に打設の際の型枠の跡を見ることができます。


砂上櫓 Scull on Sand
江口 週 EGUCHI Shu
木(桜)
1965
第1回現代日本彫刻展 大賞(宇部興産株式会社賞)

UBEビエンナーレは、1961年に第1回宇部市野外彫刻展として始まり、1963年に第1回全国彫刻コンクール応募展、1965年に第1回現代日本彫刻展へと名称を変更し、開催形態を模索してきました。授賞制度が設けられたのは1963年です。「砂上櫓」は、当時30代の新人であった江口の大胆さ清新さが評価され、大賞に選出されました。民芸的な印象を与えがちな木材を使用し、日本の伝統的な木造船をモチーフとしながら、ダイナミックな造形で現代の彫刻の可能性を切り拓いた記念碑的作品です。


道標・鴉 Milestone, Crow
柳原 義達 YANAGIHARA Yoshitatsu
ブロンズ
1968

様々な作家が戦後日本の彫刻の新たな形体を求めて挑戦するなか、戦前から一貫して自身の彫刻の道を探求し続けた作家もいます。柳原義達は、向井良吉と並んで、具象・抽象の作家たちを率いて、野外彫刻展を牽引してきた宇部市に縁の深い作家で、第29回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)からは、柳原の功績を顕彰する柳原義達賞の設置も予定されています。「道標・鴉」は、柳原が生涯取り組んだ“道標”シリーズのひとつで、カラスの生命や動勢を掴みとろうとするその表現は、野外・屋外に関わらず、確固たる存在感を放っています。


孤独の輪郭 Lonely Figure
木村 光佑 KIMURA Kosuke
ステンレス
1977
第7回現代日本彫刻展 大賞(宇部市賞)
設置場所 ときわミュージアム館内

初期の現代日本彫刻展では、各回ごとにはっきりとしたテーマが設けられていました。第3、4回展は、戦後の新素材であるステンレス、アルミニウム、プラスチック、強化プラスチックがテーマとなりました。その後、第5回展では「形と色」、第6回展では「彫刻のモニュマン性」。第7回展のテーマは「現代彫刻の抽象と具象と」でした。抽象か具象かという話題が盛んだった時代は過ぎていましたが、野外彫刻の都市での役割を見つめ直すうえで、再度この問題に目を向けようという意図があったようです。「孤独の輪郭」は、椅子をモチーフとしている点で具象かもしれませんが、地面に敷かれたステンレス板は空を映し、椅子は虚空に浮かぶ玉座のようで、非現実的な印象を与えます。周囲の環境を取り込みつつも、社会の喧騒とは一線を画す、心象風景のような、叙情的な作品です。


正五角形のピラミッド Pentagonal Pyramid
田中 薫 TANAKA Isao
1979
ステンレス、モ-タ-、歯車
第8回現代日本彫刻展 大賞(宇部市賞)

第8回展のテーマは「彫刻のなかのポエジー」でした。このテーマの意図は、決して彫刻でポエジー(詩情)を表現すべしと鼓舞するものではありません。むしろ作者の思いはどうあれ、造形の構築によって制作される彫刻から、いかにしてポエジーが生まれ出ずるのか、そのことを考えようとするものでした。「正五角形のピラミッド」は、ピラミッド型の形体を、断面が正五角形になるように切断し、その上部が回転することで、形容しがたい形体に変化したあと、5回転して、もとの静謐なピラミッドの姿に戻るという電気仕掛けの動く作品です。情緒や思念を削ぎ落としたような形体から、見る人の感情を揺さぶるような結果が生まれた点で、まさにこの回の大賞にふさわしい作品であったといえるでしょう。


つなぎ石-作品3   Stone Joint – Work 3
山根 耕 YAMANE Ko
1989
石(花崗岩)
第13回現代日本彫刻展 大賞(宇部市賞)
設置場所 ときわ湖水ホール前

1980年代は、都市景観という言葉が注目されはじめた時代です。彫刻展のテーマもそれまでの彫刻志向から、まちや人に目を向ける視点が強まります。神戸須磨離宮公園現代彫刻展(1968年~1998年)やヘンリー・ムーア大賞展(1979年~1991年)など、野外彫刻を扱うコンクールも、格段に増加しました。「つなぎ石」は22トンの巨大な石の作品で、野外彫刻のひとつの到達点のような圧倒的な迫力があります。この頃には、宇部市の野外彫刻コレクションも100点を超え、市のキャッチフレーズも「緑と花と彫刻のまち」となりました。


月に向かって進め Let’s Sail to the Moon
1995年
石(玄武岩・花崗岩)
第16回現代日本彫刻展 大賞(宇部市賞)・下関市立美術館(植木茂記念)賞
設置場所 ときわ公園 UBEビエンナーレ彫刻の丘

1965年の「砂上櫓」から30年後の、同じく“船”をモチーフとした大賞作品です。受賞当時、井田が30代であったことも共通しています。全体のおおらかなフォルム、自然石の質感、細部の繊細な作り込みが調和し、ひとつの世界観を豊かに表現しており、完成度の高い野外彫刻であることを感じさせます。個々の作品の個性がより多様化するなかで、彫刻を展示する環境としての会場の在り方も再考され、現在のようなニュートラルな会場が整備されたのもこの頃です。現代日本彫刻展の挨拶文には、この展覧会が、「自然と彫刻との調和や新たな都市づくりを追求して」実施されていることが明記されるようにもなりました。


Cycle 90°-「風の予感」Ⅲ  Cycle-90゜ Presentiment of Wind Ⅲ
松本 薫 MATSUMOTO Kaoru
2005年
チタン、ステンレス、ベアリング
第21回現代日本彫刻展、宇部市野外彫刻美術館賞
設置場所 山口大学医学部附属病院内

1990年代からパブリック・アートという言葉が急速に普及し、2000年代はさらに一歩踏み込んだ「まちとアート」の関係が生まれつつある時代でした。現代日本彫刻展でも、志向性の異なる作品が共存した時代です。松本薫の「風の予感 Ⅲ」は、シンプルな形体とヘアライン仕上げのステンレスが落ち着いた印象で、風に吹かれてゆっくりと回転する様子は、優雅でもあります。周囲の環境にひとつの基調を与えるような洗練された作品です。


Our Love
2013
石(トラバーチン)
冨長 敦也 TOMINAGA Atsuya
第25回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展) 大賞(宇部市賞)
設置場所 ときわ湖水ホール前

グローバル化に対応するため、名称には「UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)」(2009年~)が採用されるようになりました。半世紀続いてきた野外彫刻探求の道の途中で、忘れかけていたものをふと取り戻すかのように、ひとの手のやさしさや境界の曖昧さを示してくれたのが「Our Love」です。参加型・体験型のアートが隆盛するなか、新たな試みとして、作品の仕上げを作家自身ではなく、他者へ譲るという実験的な手法で完成した作品です。


リメンバー宇部 remember – ube
金 景暋 KIM Kyoung-Min
2017年
ステンレス
第27回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)大賞(宇部市賞)
設置場所 ときわ公園 常盤神社西側

長い歴史のなかで、第4回展(1971年)の多田美波に続いて、大賞を受賞した二人目の女性作家による作品です。ステンレスの鏡面磨きと、鍛金による自由な造形で、水の自在な動きを彫刻としました。背景に見える常盤湖や公園にあふれる光ともよくマッチしています。「アートによるまちづくり」を重点に掲げ、UBEビエンナーレという彫刻の祭典を、来場者に楽しんでもらうことを目指した結果、彫刻の都市空間への意識が、会場であるときわ公園の環境へと強くシフトしている点は、2010年代の特徴と言えるでしょう。


はじまりのはじまり The Birth of Life
三宅 之功 MIYAKE Shiko
2019年
ステンレス、GRC、鉄、人口土壌、植物
第28回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)大賞(宇部市賞)
設置場所 ときわ公園 UBEビエンナーレ彫刻の丘

「はじまりのはじまり」は卵というわかりやすいモチーフのなかに、様々な要素を織り込んだ力強い作品です。遠目にもはっきりと形が認識され、近づくと小さな植物たちの栄枯盛衰を眺めることができます。この植物たちはつねに手入れを必要としており、小さな声で、周囲の人々の思い遣りを求めています。恒久性や安定性が好ましいとされる野外彫刻に、意外な視点をもたらしてくれた作品と言えるでしょう。
2020年は、第29回UBEビエンナーレの公募年でしたが、世界的な新型コロナウィルス感染拡大をうけて、募集は延期となりました。次回無事にUBEビエンナーレが開催される時には、野外彫刻はどんな姿をしているのでしょう。探求の道はこれからも続いていきます。

令和2年度 文化庁文化芸術創造拠点形成事業

Top