木でつくってみよう × 中出武彦さん
中出武彦(なかいで たけひこ)さんは、UBEビエンナーレで「深夜バス」、「もりのまち」、「風の灯台」など、木をつかった野外彫刻をたくさんつくっているよ。そんな中出さんに、これまでつくった作品のことや、つくったものを売るお仕事について教えてもらったよ。
インタビュー2020年8月、9月
中出武彦さん
誰にでもつくれるものを美しくつくりたい
トキトキ:木ってどんな素材なの?
中出:木は切ったり組み立てたり、積層したりしながらつくることができて、自分でコントロールしやすい素材だと思います。あと古くなった時の終わりが近づいた感じの質感というか、いずれ消えてなくなっていくような永続性のない感じが好きでよく木で作品をつくっています。
えっ!作品がなくなっちゃってもいいの?
僕は、作品そのものや完成への執着はあんまりなくて、その途中にあるなにかをきれいにつくるみたいなことへの喜びが強いと思います。
トキトキもきれいにつくれたら嬉しいきもちになるよ!
でしょう(笑)。ずっとつくり続けていますが、それは自分の作品だけでなく、誰かに頼まれたオートクチュール的なものだったり、建築模型のようなプロダクトの試作的なものだったり、そういうものも同じような感覚で、誰にでもつくれるものを美しくつくりたいなと思いながらつくっています。
サントリー天然水 奥大山ブナの森工場 模型デザイン製作・監修 2017年
プロジェクションマッピング用で、幅4.7m、高さ1.2m、奥行2mの大きな山です。まさに大山(だいせん)。
美しくつくるポイントは?
めんどくさそうなところから始めていく。細かくこだわりたい部分と、大まかでも影響ない部分を見極める。しっかり食べてよく寝る。早起きして午前中の作業を充実させる。失敗してもやり直す。
なるほど。中出さんは、最近はどんなものをつくっているの?
最近は主に仕事で建築模型をつくっています。
建築模型って?
家などを建てる時、お客さんと一緒にああでもないこうでもないと打ち合わせをするためのミニチュアの建物です。最初の就職先では美術館に飾るような精巧な展示用模型をつくったりもしていました。
実は最近の打ち合わせは、ほとんどCG(コンピューターグラフィックス)で説明するため、模型はなるべく作らないで済ませる方向に進んでいます。模型は時間も労力もかかって効率が悪い。VR(ヴァーチャルリアリティー/仮想現実)が主流です。
本物と同じように模型やVRで建物をつくるの?
そうなんです。でもやっぱり模型の方がわかりやすいという人が圧倒的に多い。ところが作る人はすごく減っている。だから僕は忙しい。設計者さんにも「よく毎日つくれますね~」と言われますが、もう毎日つくります。楽しいとか飽きたとかいう次元ではありません。ほぼ無心です。喜んでもらえる上にお金ももらえる。断らずつくり続けた中でだんだんと仕事になってきました。つくることを仕事にするってこういうことだなと思います。
つくった後のことはあまり考えたことがなかったなぁ。
好きなものをつくることと、仕事でものをつくることって、なにかちがうの?
僕はもともとデザイン科なので、つくることと職業的なことを成り立たせることに意識がいきがちで、つくる仕事って言われるとそれで生活できることだと思っています。純粋に作品をつくることだけで生活している人がそんなに多くはないと思うので、そういう意味で彫刻家は仕事と言うより愛犬家とか倹約家に近いように思っています。
そっか!中出さんの言う彫刻家って彫刻をつくるのが好きな人って感じかなあ。
そうですね。正直、美術作品をつくることで金銭的な釣り合いを取るのは難しいと感じています。そういうことは考えないようにしていたりします。僕には無理!だから自分の作品をつくる時は、自分が「こんなのあったらうれしいか?」と思うものをつくっています。
UBEビエンナーレの野外彫刻も「あったらうれしいな」の作品なの?
正直、UBEビエンナーレは賞金に目がくらんで応募しました。100パーセント純粋な動機(笑)
最初の「深夜バス」は、普段見慣れたものを木でつくったらおもしろいなと思って、夜勤に向かう途中にすれ違う長距離バスをモチーフにしました。まっ暗な深夜に白い光を発しながら毎日走っている。その中に人がいる。どこから来てどこに行くのか、いろんな人や仕事があると思いました。
中出さんのバスかわいいなって見ていたけど、なんだかちがう気持ちにもなっちゃうな。まちを走っているバスも不思議な乗り物に見えてきちゃうな。
バスの中にだれか座っているけどあの人は誰?
あれはバスを見に来たあなたです。
「もりのまち」や「風の灯台」にも作品の中に小さな人型の彫刻がいました。守り神的なものだったり、そこに住んでいる小人のようなものに思ってもらってもいいですし、見ている人がそこにいるような気分になったり、そこに入り込める装置のようなものがあってもいいなと思って作品に隠しています。
小人たちは神様みたいでも、知らない誰かでも知っている誰かでも、見てるトキトキでもいいんだね!
そうなんです。
「もりのまち」や「風の灯台」はどんな作品なの?
「もりのまち」は遊具のような彫刻がつくりたくてつくった作品です。僕は落ちると痛いからジャングルジムって嫌いなんですが、うちの子どもが好きで近所の公園でよく遊んでいました。当時、ジャングルジムは危ないからって各地で取り壊されるようになった時期で、近所の公園のジャングルジムも取り壊しになりました。そういうこともあってなんとなくああいう作品がつくりたくなったんです。
トキトキもジャングルジム大好きだよ!最近は見たことない子もいるのかも?
ジャングルジムって棒だけでできているから、外から見ているとスカスカなんだけど、中に入ると建物に入ったような気分になったり、遊びながらいろいろ想像したりできるんですよね。そういうものの中でひとやすみしたり、のぼったりできたら楽しいなと思ってつくりました。「もり」は、森や杜、守でもよくて、なにか守られている場所のようなイメージもあったりします。
木でできた守られてる場所っていいにおいがしそうだな。トキトキも中に入ってみたかったな!
「風の灯台」はどうやってできたの??
うーん。あれはなんでつくったんだったかなあ。
灯台って、誰かがどこかへ行ったり戻ってくる時の目印とか道標みたいなものでしょうか。つくる前に闘病中の知人が「死ぬなら海の見える場所がいい」って言い出して、僕の生まれ故郷の尾道に連れていったんですが、そういう影響もあってつくったのかもしれないですね。知人はその後復活して元気です。湖から吹いてくる風で灯台の上の風車がくるくる回って、内側は鏡を張った大きな万華鏡になっていて、中に入ると風でくるくるまわる風車と自分の姿が映ります。
なんだか中出さんの野外彫刻には、いつもどこか別の場所があったり、つながっていたりするんだね。
これからどんな作品をつくってみたいですか?
すごくお金になる作品がつくってみたいです。
褒められて喜ばれて儲かる。仕事になる作品。お金になる作品。
お金になる作品ってどんな作品?
僕は作品をつくることだけで生活できる状態っていうのがよくわからない。そもそも、美術作品をつくることの対価がどうやったら決められるのかなんて本当は誰にもわからないような気がしていて、それっていったい何なんだろうとずっと感じています。そういう意味ですごくお金になる作品を、いつかつくってみたいなと思っています。
ただそれは、自分でもその対価にたいして後ろめたさのようなものを感じないような、つくることの対価としての“正しさ”のようなものを含んだ作品としていつかつくれるといいなと思います。
それって本当にどんな作品なんだろう。わかんないなぁ。トキトキが考えてくれてもいいんだけどな。
中出さんにわかんなかったら、トキトキにもわかんないよ!
でもなんだろう。きっとまた新しい作品もここからどこか別の場所に連れて行ってくれるんだろうなってわくわくするなぁ。
作品が完成したら教えてくださいね!またお話を聞かせてほしいな。
今日は本当にありがとうございました。
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