UBE BIENNALE

金属っておもしろい! × 村中保彦さん

村中さんは、山口県出身で広島県に住んでいる作家さんです。
1999年の第18回現代日本彫刻展の「雲の上の町」(山口県立美術館賞)から、第22回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)で「河馬の工事現場」、第23回展で「キリンの工事現場」(山口県立美術館賞)、第27回展で「エルクの工事現場」という野外彫刻をつくった作家さんだよ。おもにステンレスという金属を溶かして固めたりくっつけたりして、大きなものから小さなものまでたくさんの作品を作っているんだよ。
そんな村中さんにお話を聞いてみたよ。

インタビュー2020年7月

伝統的な技法にはこだわらず、何か新しいことを試してみたい!

トキトキ:金属ってどんな素材ですか? 

村中:金属がいちばん自由に表現できるように思います。たとえば金歯のように小さなものから奈良の大仏のような大きなものまでつくることができて、素材の特徴や技法にしばられてつくりたい形を変える必要が少なくて、想像した形をつくりやすいと思います。

ほかにはどんな素材があるの?

そもそもは、大学の工芸(こうげい)科に陶芸(とうげい)、染色(せんしょく)、漆芸(しつげい)と金工(きんこう)があって、それぞれを体験する機会がありました。この体験で金属が溶けた色合いがきれいだなと思って金工の鋳金(ちゅうきん)を選びました。

線のある器」金沢工芸大賞コンペティション大賞(1993年)

工芸科っていろんな体験ができるんですね!粘土や染め物、漆なんかも面白そうだなあ。
金工のクラスってどんな感じだったの?

この頃の金工を専攻した学生は、現代美術的な志向が強く抽象彫刻をつくる人もいて、工芸科だけど「工芸的作品を作るなんて」という独特な雰囲気があったんですが、その頃の僕はあまりそういうことに興味がなくて、銅鐸(どうたく)など工芸といわれる造形表現に関心がありました。

おなじクラスでもちがうことをしたりするの?

そうですね。この頃の自分のつくりたいものを素直につくるという経験が、今も制作を続ける礎になっているような気がしています。今では、小さなものから大きなものまでステンレスを中心に、木や紙などでも作品をつくっています。

そもそも彫刻と工芸ってなにかちがうの?

工芸は用と美が求められます。現代では用は工業製品に取って代わられていますが、工芸は器など用のある造形表現、彫刻は純粋に美の表現を追求する造形表現になると思います。工芸と彫刻ではつくる人の印象も違うように感じます。

そっか!工芸はお皿だったりつかう形をつくるんですね。
つくる人の印象もちがうってどんな風にちがうの?

そうですね。工芸は高い技術をもっている人が尊敬される傾向があり、彫刻の人に比べると全体的に繊細なイメージがあります。彫刻の人はおおらかに作品づくりをしているという印象を持ってます。

また、工芸作品は好きな人が手元に置いて使ってくれることが多いので、作品からみると出会える人は少ないかもしれませんが、作品としての寿命は長いように思っています。野外彫刻は、多くの人に出会い観てもらうことができますが、工芸作品より寿命が短いように思います。

作品と出会う人の数。想像してみると不思議だな。古くからある作品ってなんだかすごい。ときわ公園やまちにある野外彫刻もたくさんの人たちに出会ってきたのかな。
村中さんはどうして野外彫刻をつくってみたくなったの?

大学の教員をしながら30代後半くらいまで工芸的な作品を中心に、少しずつステンレスのオブジェなどもつくるようになっていましたが、個展の時などにだんだんと若い人などから工芸的な作品をあまり見てもらえないことが増えてきました。そんな時に宇部で野外彫刻展を見て、彫刻家だけでなく工芸や絵画、いろいろな作家が様々な野外彫刻をつくっていることを知りました。「こんな風につくっていいんだ」と野外彫刻に興味がわきました。

自由なきもちでつくりたくなったんですね。村中さんの野外彫刻のこと教えほしいな。

このあとにつくったのが「雲の上の町」ですが、僕としては彫刻家というより「工芸家が野外彫刻をつくったらこういう作品ができました」と思っています。野外彫刻は、自分が好きな形を組み合わせることから生まれた作品です。「雲の上の町」も動物の工事現場シリーズも、鋳造でつくる有機的な形と直線的で無機質な形が組み合わさる事で生まれる対比の効果なんかを面白く感じています。

 「雲の上の町」
第18回展 山口県立美術館賞(1999年)
「河馬の工事現場」
第22回展(2007年)

本当だ!町も工事現場も、やわらかい形とまっすぐな形が組み合わさってる。

野外彫刻をつくり始めた頃は、溶接ができなくて業者に外注して制作していましたが、誰かに頼むとなるとつくりたい形の図面をきちんとつくってお願いしなくてはいけなくて、途中でやっぱりこうしたいというような自由があまりききません。なので、少しずつ道具を増やして「河馬の工事現場」からは自分でパーツを溶接できるようになりました。

 「キリンの工事現場」
第23回展 山口県立美術館賞(2009年)
 「エルクの工事現場」
第27回展(2017年)

自分でできないところは誰かにつくってもらうこともあるんですね。

それと、「エルクの工事現場」ではじめて作品から台座がなくなりました。この作品を造った頃に自分の中で「工芸」という心の縛りが取れたように思います。

本当だ!エルクは地面に立ってる!そう言われると「台座」ってなんだか不思議なものだなあ。

ほかにもボタンやアクセサリーなど道具として使える小さな動物や、鋳物の重さの反動からか、空気の動きを感じられるような軽さのあるインスタレーション作品などもつくったりもしています。

 「風を感じて」(2016年)
村中保彦展―風のいろ 風のかたちー
三良坂平和美術館
オブジェ「蛙三匹」(2019年)
 ペーパーホルダー「ネコと風船」
うさぎの香合
動物フィギュア(ハシビロコウ他)
(2019年)

いろいろな作品があるんですね!作品はどんなところでつくっているの?

小さなものは自宅のアトリエで、大きなものは実家のアトリエでつくります。かたちのもとになる原型は粘土や蝋で作ります。金属の鋳造は業者に頼んで、できあがった金属を仕上げたり溶接して作品を完成させます。道具もつくる内容によっていろいろです。

大きい作品制作の様子

工場みたい!なにかつくりたくなってもすぐにつくれそうですね。ここで次はどんな作品がつくられるのかなあ。

次は木と金属を組み合わせた作品を作りたいなと思っています。鋳物の金属と木彫を組み合わせて形をつくるような感じです。

次は好きな素材の組合せになるの?どんなふうに組み合わせるの?

例えば動物だったら頭は鋳物で体は木彫といったように素材を組み合わせてかたちをつくって、表面は着色して仕上げたいと思っています。素材とかたちが色でつながっているようなイメージです。工芸の場合、金属は化学反応で着色する様々な伝統技法があります。表面にアクリル絵の具などで着色するというのは邪道かもわかりませんが、だんだんと伝統的な技法にはこだわらず、何か新しいことを試してみたいなと思っています。

素材と形が色でつながる作品ってどんな感じになるのかな。つくっていく中で新しいつくりたいものが見つかる。つくりたいものをつくりつづけるってきっと大切なことなんだな。
これから生まれてくる村中さんの作品達もとっても楽しみです。またお話を聞かせてもらいたいな♪ 今日は本当にありがとうございました。

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