かたちを探そう! × 谷口顕一郎さん
ドイツを拠点に活動している谷口顕一郎さん。アトリエには蝶番や歯車のついた黄色い彫刻がたくさん並んでいたよ。これはいったい何のかたちだろう?作品のお話や地元札幌での思い出、ドイツに渡り芸術家として生きることについてお話を聞いてきたよ。
インタビュー2020年6月5日、6月13
ドイツのアトリエは、1904年築のアパートを改装して使っています。
トキトキ:谷口さんこんにちは!アトリエには色んな道具や作品が並んでいて、ワクワクしてくるなぁ。
谷口:アトリエはドイツにある1904年に建てられたアパートを使ってるよ。使っている道具は、一つ一つ吟味していて、僕の手の延長なのでとても大切にしているんだよ。使うときも片付けるときも感謝をこめて扱うようにしているし、例えば作品に使う小さなネジは、お気に入りの小箱に入れて並べているよ。こういうものを見るとワクワクするよね。
トキトキ:ねぇねぇ、この黄色い彫刻は、なんていう名前なの?
谷口:これはね、今作っている作品で、広島のかたちを作品にした「凹み彫刻」だよ。
トキトキ:凹み彫刻?
谷口:えーとね。ぼくは身の回りの、例えば道路や家の壁なんかにできたひび割れや傷の形が好きなんだけど、特に気に入った形をシートに写し取って作品にしているんだよ。その作品のことを「凹み彫刻」っていうんだけど、この広島の凹み彫刻は、広島の街そのものの形を大きな凹みとして考えて作った作品だよ。
トキトキ:へー、なんだかおもしろそう!ずっと凹みの彫刻をつくっているの?
谷口:最初に凹みの彫刻をつくったのは今から20年くらい前で、大学の卒業してちょっとしたくらいかな。展覧会の会場の床に大きな凹みがあって、何かできないかなぁって考えたのが最初だよ。その時作った作品がとってもかっこよくて、ワクワクして、もっと作りたいなぁって思ったんだよ。
トキトキ:トキトキも、ワクワクしたいなぁ。でも、ずっと続けるのって難しそう。
谷口:そうだねー。僕も、ずっと変えようとは思ってるんだよ。でも、まったくはじめてのことをやるよりは、いまやっていることを高めたり深めたりすることで、自分を変えたいなぁって思ってる。この方法が絶対正しいとも言えないけれど、僕にはこのやり方が合ってるかなぁ。僕の作品の中でもこれだけは変えないようにしよう、という要素がいくつかあるんだけれど、そこを変えないで、いかに高みに持っていけるかが大切かなぁ。自分にあったものを見つける。好きなことや、タイプを見つける。まどわされないことも大切かもね
トキトキ:トキトキも、好きなこといっぱいあるよ!でも、なかなかうまく作れないときもあるんだ。
谷口:僕の経験でね。ヨーロッパに来てから作品がうまくいったなぁ、成長したなって思う機会が3回くらいあるんだけど、もちろん小さな成長は数えきれないくらいあるけどね、大きい成長ね。それは何かに失敗したり、本当に悔しい思いをしたときに成長したんだよ。そういう時にうまくいくようになる。どうやったらいいかっていうと、人のせいじゃなくて、自分がいたらなかった、自分の作品がダメだった。悔しいけれど自分の責任。その時に、失敗した時に「よし!もっといいものを作ろう」と思えるかどうかが大事かな。うまくできなくても、人のせいにしないでもっと頑張ればきっとうまくいくよ。
谷口さん札幌からドイツへ
トキトキ:谷口さんは、こどもの時何をして遊んでいたの?
谷口:僕は生まれ育ちも札幌で、小さい頃は色々なことをして遊んでたよ。釣りをしたり、虫取りをしたり。サッカーや野球もしたし、チャンバラごっこや忍者ごっこもしてました。あとはレゴでもよく遊んだなぁ。近所には素敵な庭のある家がたくさんあって、そこで遊んだりもしたね。トキトキは何して遊んでるの?
トキトキ:トキトキはね、外に出かけて素敵なものを探したり、おうちで粘土遊びしたりしてるよ。じゃぁ、大人になってからは何をしてたの?
谷口:大人になってからかぁ。高校生の時は、僕はろくでもない生徒だったんだけど、将来何になりたいかなーって考えたときに、デザイナーになりたいなと思ったんだ。なんかかっこよさそうだし。じゃあ、デザイナーになるにはどうすればいいのかなって調べたら、それには美大っていうところに行って、美大に行くにはどうすればいいのかなって思ったら、ある程度デッサンができないといけないと分かって、じゃあ準備をしなきゃいけないなと。美術予備校っていうところがあるんだけど、そこに行きはじめて、最初はデザインの方に行きたかったけど、デッサンしたりしてると、普通に美術も面白いなぁって感じ始めたんだよ。
トキトキ:将来かぁ。トキトキは何になろうかなぁ。それから谷口さんはどうしたの?
谷口:大学に行って、絵の勉強をするところにいったんだよ。一年生の時はエネルギッシュで、絵もやりながら僕だけ彫刻の授業も受けさせてもらってたんだ。最初は人の頭の彫刻をつくったり、裸婦像を作ったりしていたけれど、僕はやっぱり絵画だから、あまりボリュームというか塊には興味が無くて、平たいものにしか興味が無かった。平たいものを組み合わせてボリュームをつくるのはいいけれど、そういうのも今に影響しているなぁって思うよ。
トキトキ:トキトキも、絵も彫刻もどっちも好きだよ。
谷口:それから大学を2000年に卒業したんだけど、その少し前の1999年くらいから、札幌でS-AIR(エスエアー)っていう海外の作家さんと交流する事業がはじまってね。僕もそのころからちょいちょい海外の人と会う機会があったんだ。ヨーロッパの作家さんと仲良くなったり、「ケン。お前も何か展覧会やろう」とかなって、オランダやドイツのギャラリーで展覧会したりしてたんだ。そのころからかなぁ、このまま日本にいても、居心地はすごく良かったけれど、ぼくは凄く怠け者だし、ぬくぬくしていたらロクな作品をつくらないだろうな、と思ったんだ。そんなこともあってヨーロッパに行って作家になろうと思ったんだよ。
トキトキ:いいなぁ、トキトキもヨーロッパの友達がほしいなぁ。
谷口:トキトキだったら、きっとすぐに友達になれるよ。
芸術家は普通のお仕事なんだって
トキトキ:毎日ずーっと作品をつくる芸術家って、どんなお仕事なの?
谷口:そうだねー。トキトキは芸術家ってどんなイメージがあるのかな?どうしても芸術家っていうと、破天荒で才能あふれていて、ハチャメチャでもいいものがポコンと作れるみたいなイメージがあって、日本では職業としてもあまり考えられていないのかな。良い悪いじゃないけどね。僕が2005年に拠点をヨーロッパに移してから驚いたことの一つが、芸術家っていう職業が普通にあるってところなんだよ。ヨーロッパに来て仕事として美術をやっていると「お前は芸術家なんだね」って職業として捉えてくれることが嬉しかったなぁ。給料ではないけれどお金の流れがあって、きちっとお金が払われたり、ちゃんと依頼もあって、フリーランスの職業としての芸術家・アーティストがあるのは居心地が良いよ。こっちでは、例えば八百屋さんや郵便屋さん、漁師さんや警察官みたいに、普通に芸術家っていう職業があるんだ。僕の中では製造業のようなものかな。ちょっと特殊だけどね。
トキトキ:八百屋さんやお魚屋さんと同じかぁ。トキトキは何になろうかなぁ。
谷口:芸術家になろう!とは言わないけれど、芸術家の特権を教えてあげよう。まず1つ目は自分のこれまでやってきたこと、作ってきた作品、全てが自分の経験値として、作品として、経歴としてつもっていくところです。2つ目は定年が無いことかな。退職金は出ないけれど、70歳になっても80歳になっても稼げる可能性があるんだよ。3つ目は、例えばスポーツ選手はピークがあるでしょ。25歳、長くても35歳くらいまでかな。芸術家はね、頭がボケない限りずっとピークなんだよ。ずっと続けられる。だから長生きしなくちゃいけないから、健康には気を使ってるよ。
トキトキ:何かをつくるって楽しいよね!トキトキも大好きだよ!
谷口:僕は仕事として作品をつくっているけど、小さいころから何かを作ったり、何かに夢中になることは大切だと思うんだ。なんでもいいと思うけれど、例えば料理だったら、食材のことを考えていると肉とか魚とか植物とか、色々な素材に出会う、触れ合うことができるよね。料理の方法もいろいろあって、いろんな要素や視点が増えてくる。広い視点、深い視点、いろんな見方があるけれど、それを体験しておくことが、文字通り人生を豊かにしてくれるんじゃないかな。子供のころに、特に意味を求めずに何かをやってみる、はじめることは、自分で方法やルールをつくって遊ぶことだと思うんだけれど、それが今の自分を支えている気もしてるんだ。うまく言えないけれど、サッカーだったらボールを蹴るだけでもいいし、編み物だったら一段一段の網目の視点でもいいと思うんだ。何か、技術っていうのかな。何かが自分の中にあることで、ふとした時にそれが役にたったり、大きいこと言うと、人生を助けてくれたりするんだよ。
トキトキ:そうかー。トキトキも何か夢中になれるものを探そうっと。谷口さん、ありがとうございました!
谷口:トキトキも、遊びに来てくれてありがとう!すてきな作品をつくってね!
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