石をみがいてみよう!× 冨長敦也さん
みなさん、こんにちは。冨長敦也さんは、ときわ湖水ホールの前にある、大きな3つの石が寄り添って、みんなが座ることのできる「Our Love」という作品を作った作家さんです。 待ち合わせ場所にしたり、ちょっと立ち止まってお茶を飲んだり、ときわ公園の人気スポットになっています。横から見ると気がつかないけど、上からみると、みんなハートの形をしているところがポイントです。
「Our Love」は夏の美術室の窓からも見えるし、トキトキはずっと「Our Love」のそばにいるから、冨長さんともずっとお友達のような感じがするんだ。
今回は冨長さんに、これまでのプロジェクトのことや材料の石のこと、コロナが流行っているなか、いまどうしているかを聞いてみたよ。
インタビュー2020年8月
コラム1 どうしても家でも磨きたいという小学生との出会い
1 冨長さん、「Our Love」のこと教えてください! どうしてハートの形をしているんだろう?
実は、ハートは僕にとっては偶然にできた形なんです。最初から「よしハートにしよう」と思ったのではなく、自分が、川の流れや吹く風になって石の形を変えようという気持ちで、石を彫ってみたら偶然にお尻のような形ができてハートになったんです。 「Our Love」は、大きな石をハートの形にけずったあと、3つの石をそれぞれ、ときわ公園と学びの森くすのき、大阪教育大学に運んで、その場にいるひとたちに呼びかけて、水と紙やすりで表面をピカピカに磨(みが)いてもらうワークショップ「Love Stone プロジェクト」をしました。全部で500人以上の人が参加してくれました。
2 3つの石が、それぞれちがう色をしているのはどうして?
色がちがうのは、石が生まれたところがちがうからです。ぼくらの指先のぐるぐる模様は世界中の人が全員ちがうってことを知っていますか。ふしぎですよね。人の指紋は同じ人がいないんです。石の色もその石が取れた場所が少しはなれると、同じ色はないんです。石はどこか人と似ています。白色はイタリア・赤色はイラン・黄色は旧ユーゴスラビアから宇部に来ました。
同じ石でも、土地によって色が変わるなんてロマンチックだなぁ。
3 この作品で、UBEビエンナーレの大賞を受賞したんですよね!受賞した時はどんな気持ちでしたか?
いや~ほんとに嬉しかったです。ずっとずっと、あこがれの展覧会だったし、その中で賞をもらったわけですからね。それと、みんなと石を磨くプロジェクトをはじめて宇部でしたことは、今だから言いますがおそるおそるのチャレンジでした。それが認められたわけだから心臓が飛び出すくらい嬉しかったし、その時の気持ちはいつまでも忘れることはないです。
4 そこから冨長さんの新しい旅が始まったんですよね。2014年から始めたLSP(Love Stone Project)について、そのきっかけや、仕組みを教えてください。
ビエンナーレでの大賞は、自分ひとりでは絶対もらえない賞だったんです。宇部のたくさんの人と磨いたわけですから、みんなの賞だと思っていました。だから、宇部のみんなに彫刻で恩返しをしたいと思っていたところに、ときわミュージアムでの展覧会の相談がありました。僕は、今度は、世界の人と石のハートを磨き、その世界のハートが宇部に集まるストーリーを考えました。アメリカ、メキシコ、フランス、ベトナム、北海道から九州まで世界中でハートを磨く旅を始めました。世界各地の人たちとハートを磨きだすと、ハートはみんなで磨きたいという世界共通の形であることがわかりました。ハートからみんな愛情を連想するから、世界のどこでもアジアの端からやってきた僕を、こころよく受け入れてくれたよ。
5 日本だけじゃなくて、世界中の人たちがハートの石を磨いたんだね。それからみんなで磨いたハートはどうなったの?
2014年の5月にキックオフイベントをして、1年かけて5000人の参加者と120個のハートを磨いて、2015年4月に「冨長敦也のハートボイルド展 世界をつなぐ 未来の彫刻」ていう展覧会で、ときわミュージアム分館(今のアートギャラリー)に並べました。120個のいろいろな形をしたハートが大きなひとつハートの形になるように並べたんだよ。
世界中から集まったハートには、それぞれに思い出があるんだけど、会場に集まることで、大きな物語が完成したよ。 そのハートは、今でも宇部にあります。また、どこかで見てください。そのハートの中には、宇部市の全ての小学校24校を回って宇部の小学生みんなで磨いたハートもあります。その時の宇部市に住んでいる小学4年生は全員磨いたことになります。今は15才(中学3年)になっていると思います。成人式には、ぜひこのハートとみんなで再会して欲しいですね。
再会した時は、みんな自分が磨いたハートのこと覚えてるかなぁ。楽しみだね。
6 いま、急に新型コロナウイルスのことが起きて、学校にいけなかったり、お祭りが中止になったりしています。冨長さんは何か困っていることはありますか? 今までみたいに、色々な国に出かけて、みんなでハートの石を磨くことはできなくなっちゃった?
そうですね。僕は、皆さんと同じ小学生の時に見ていたムーミンの中でも、旅人であるスナフキンにあこがれて、大人になりました。だから旅が大好きなんですが、どこにも行けない毎日は、困りました。これまで計画を立てていた、ミャンマーとスウェーデンでの石磨きの旅が、延期になっています、、、いろんなことに困りましたが、みんなで一緒に触れることや人と人との距離を考える必要から、みんなと一緒にワイワイ言いながら石の周りに集まり磨けなくなったことはさみしいことです。
7 でもそんな中で、4月から新しいプロジェクトを始めたんですよね! LSP-Home を始めたきっかけについて教えてください。
去年、僕が住んでいる隣の市で、みんなで大きな石を磨いているときに、どうしても家でも磨きたいという小学生と出会い、ハートの石を送っていたんです。ちょうど、新型コロナウイルスの非常事態宣言中に、その小学生からお手紙をもらったんです。その中には、ベランダでお父さんと磨いている姿と完成してピカピカに輝いたハートの写真がありました。それと気をつけてください、とマスクが入っていました。僕は、言葉であらわせない気持ちになりました。今まではみんなで一つの石を磨くことで感じていたことが、離れていても石を通じてこんなにも優しい気持ちを感じることを知りました。その時に、ひとり一人が家で石を磨くことで、気持ちでつながれるんではないかと考えたんです。
名前はすぐに「LSP-Home」と決めました。おうちにいるだけではなく、逆に前向きに、おうちでひとりで磨こうという思いを込めました。
8 今までみたいに大きなハートをみんなで磨くことはできないけど、小さな小さなハートをみんなの家で、ひとり一人が大事に磨いていくんだね。うわー、トキトキも磨いてみたい!!どうやって参加するの?
方法は簡単です。SNSなどで石の送り先と個数を教えてもらえると、一つひとつ順番に用意をしているので少し時間がかかりますが、ポストに届くように郵便で送ります。封筒の中には、小さな石のハートとピカピカにするための7段階の紙やすりのセットを入れています。何かの容器に水と石を一緒に入れて、1日、1段階ずつ、ゆっくりと石との時間を楽しんで欲しいです。
9 なるほど。春からスタートして、今はちょうど夏休みだけど、LSP-Homeにはどんなひとたちが参加しているの? LSP-Homeを体験した人たちのことや、みんなの感想を聞かせてください。
そうですね。現在まで日本中で500人近い人が、おうちでひとりで磨きましたが、いろんな感想をもらっています。
ふたつ送った人は、遠くにいる大切な人にひとつ送り、気持ちを重ねて一緒に磨きました。70人以上のいっぱいの子どもさんが一緒に磨いた人たちもいます。それぞれの輝いた石をオンラインでみんなで見せ合うらしいです。
兄弟で、見せ合う日を決めて、誰が一番輝くかを競い合った家族もいます。穴がある石を磨いた人は、その穴を利用してペンダントにして、石と一緒にお出かけを楽しんでいる人もいます。
用意が出来た人から順番に郵便で送っているので、待っている人はいつ届くかがわかりません。毎日ポストを見て待っていた人が、ある日届いていて、その瞬間がとても嬉しかったと話してくれた人もいます。ネットでの買い物はすぐに届きますもんね。
10 郵便ポストに小さなハートの石が届いたら、素敵な気分だろうな。冨長さんは、LSP -Homeをしてみて、どんな気分? ハートをみんなに贈るなんて、なんだかサンタさんみたいだな。
僕は、今の状況は、世界中の人が身の回りのことを、ゆっくりと考え直すきっかけになっているように思うのです。「話し方」や「立つ位置」「ごはんの食べ方」などは、今までは考える必要もなかった簡単なことばかりです。そんな中、僕は、「磨くこと」や「彫刻」・・・「アート」について考えています。その変化は、これからの姿を見て感じて欲しいです。「Love Stone Project-Home」はその中のひとつです。まだまだ、たくさんの人が小さなハートを待っています。これからもハートの数だけいろいろな思いが生まれるのでしょうね。
コラム2:石を彫ることは、算数でいうと引き算。石を磨くことは、地球を磨くこと。
1 ところで、今度は、冨長さんが彫っている大きな石のお話を聞かせてほしいな。小さな石は道路や校庭にも落ちてるけど、大きな石ってどこにあるんだろう?
大きな石を掘り出している場所に「石切り場」というところが世界各地にあるんだよ。
多くの「石切り場」には、それぞれの歴史があって、大昔から石を掘り出しているところが多いよ。ちょうど、去年の夏には神奈川県の真鶴町から掘り出される小松石の「石切り場」で大きなハートを制作したんだけど、小松石は昔からとても有名で、江戸城にも使われているんだよ。
2 小松石の山があるの? 山がまるごと石でできているの?
大まかには、山がまるごと石でできている「石切り場」と地面にたくさんの丸い石が埋まっている「石切り場」と二通りあるんだよ。山ごと石の場合は、ダイナマイトで爆発させて石を小さくすることもあるし、地中に埋まっている場合は、おいも掘りみたいに大きなショベルカーで石を探すように土を掘るんだ。去年、石を彫った真鶴町の「石切り場」は山がまるごと石の石切り場だったよ。そこから出てきた、20トン近い石をその場所でハートの形に彫ったんだよ。
3 石の魅力、石で好きなところはどんなところ?
何よりも、磨くと輝くことかな。もちろん木も金属も輝くんだけど、何十万年前、何百万年前に生まれた石を今の人間が手でゴシゴシして、ピカピカに輝かすなんて想像しただけで、ドキドキするよね。土の中でずっとずっと寝ていた石は起こされて、太陽の下でまぶしいと思っていたら、土をおとされて中身を磨かれるんだよ。最初は恥ずかしいかもしれないけど、どんどんツルツルになって喜んでいるのがわかるよ。そんな様子は石でしか見られないと思うよ。なんせ、石は地球そのものだから、地球を磨くことが最大の魅力だよ。
石を一生懸命磨いたら、地球もピカピカになるかな??
4 冨長さんは、いつから石のことにそんなにくわしくなったの? 一番古い石の記憶、思い出ってありますか?
石の一番古い記憶は、小学校の3、4年生だと思うんだけど、小学校に通う通学路に大きな石垣のおうちがあって、その石垣に触れながら学校への行き帰りをしていたのが、今の一番古い思い出です。石垣の石は、自然の肌でゴツゴツしてるから、爪の先が、少しデコボコしたことを今も覚えているよ。
そうか! 建物の塀とかお家の庭とか、すぐ近くにも石ってあるんだね。でも冨長さんが彫るような大きな石はなかなかないと思うなぁ。
5 あんなに大きな石は、どうやって動かすんだろう?真鶴の石切り場の石はどうやって運んだの?
真鶴の大きなハートは、制作をした山手の石切り場から、少し離れた海が見える公園に移動させる必要があったので、大きなクレーンで石を持ち上げて、大きなトラックでゆっくりと運んで、そしてまた、クレーンで置きました。大きな石は、そのままでは、子どもたちは届かないくらい背が高かったから、実は40センチほど埋めたんだよ。最初は、そんなに埋めたら少しもったいないように思ったんだけど、実際に置いてみると、どっしりした感じになって、昔からそこに置いてあるように感じることができたんだ。
どっしりしてるからベッドみたいにして寝てる子もいたね。
6 作品をつくる時に一番好きな作業、一番楽しい時間はどんな時ですか?
石で作品をつくるためには、いろいろな作業があって、どの作業も好きな時間なんだけど、一番好きな時は、最初にその石と出会って、どうしようかなと考えている時です。石は彫っていくので、算数でいうと引き算みたいな感じ。粘土は、つけていくから足し算かもしれないね。石は粘土みたいに途中で足すことができないから、最初に時間をかけて、石の中身を想像するんだけど、その時はいつも、地球の中とつながっているというか、広い宇宙にいるというか、時間や場所を忘れた感覚になるよ。まるでタイムマシンに乗っているときみたいになるんだよ。
トキトキは、足し算と引き算ならできるから、石も彫れるかな(笑)
7 真鶴でつくったハートはみんなで磨いた後どうなったの?
真鶴のハートは、「真鶴町 石の彫刻祭」という展覧会のためにつくったんだよ。東京オリンピックにあわせて半島を一周するかたちでいろんな人の石の作品を見ながら回る展覧会の予定だったんだけど、今回の新型ウイルスのためにオリンピックとともに1年間、さきのばしになりました。昨年は1000人以上の人と大きなハートを磨いたんだよ。その人たちもみんな、来年の展覧会を楽しみに待っています。
来年には新型コロナウイルスのことが収まって、みんなで集まって、石に再会できるといいね!
冨長さん、石のことハートのことをいろいろ教えてくれてありがとう!
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